私道の下水道トラブル事例と回避策!未然に防ぐためのチェックポイント

自宅を購入しようとしたものの、私道に下水道が通っている場合、思わぬトラブルに発展することがあります。費用負担による近隣の方との対立や、共有者が不明で工事できない、破損や詰まりによる生活への影響など、事例はさまざまです。
対応を誤ると問題が長期化し、家の資産価値にも影響しかねません。購入契約を結ぶ前に知っておきたい、私道に関わる下水道トラブルの事例と回避策を紹介します。
目次
私道の下水道と公共の下水道の違い
私道に面している土地は下水道トラブルが発生しやすく、修理費用や責任の所在について疑問を抱える方も少なくありません。トラブルを未然に防ぐためには、建築予定地が「私道の下水道」か「公共の下水道」なのかを把握し、それぞれの違いを理解しておくことが重要です。
まずは、私道と公共下水道の違いや基礎知識を解説します。それぞれの特徴をきちんと理解しておきましょう。
私道の排水設備
まず「私道」とは、個人や法人が所有、管理する道路のことです。あくまでも個人の所有物であるため、通行が制限されている場合もあります。
「私道の排水設備」とは、私道内を通る排水管や側溝などを指し、住宅のトイレやお風呂からの汚水、雨水などを公共下水に接続する役割を担っています。
公共下水道との違い
「公道」は、公共のために整備された道路のことです。主に国や自治体が管理しているため、基本的には誰でも通行することができます。
万が一、公共下水道でトラブルが起きた場合は公的な責任となるため、住民が自治体に連絡し、適切な手続きを踏めば対処してもらえます。なお、公共下水の設置、改築、修繕、維持、その他の管理は全て自治体や国が行うのが特徴です。
これに対し、「私道」の管理責任者は所有者にあります。私道で下水道トラブルが発生した場合は、所有者が迅速に対応しなくてはなりません。また、下水道の掃除や修繕、維持については、私道の所有者全員の許可が必要です。
このように、私道と公道の下水道では、所有者の管理方法や責任に大きな違いがあります。特に私道の場合は、所有者が適切な管理を行うだけでなく、トラブル時には迅速に対応が求められるでしょう。
私道に下水道が通っていた場合のトラブル事例
私道に下水道が通っていると、トラブルの発生リスクが高くなります。ここでは、実際に起きた4つのトラブル事例をご紹介します。
- 私道の下水道工事に隣家から反対された
- 私道の共有名義人が分からない
- 私道の下水道で破損や詰まりが発生した
- 私道の共有者が費用を払わない
それでは詳しく見ていきましょう。
私道の下水道工事に隣家から反対された
1つ目は、「私道の下水道工事を隣家から反対された」というトラブルです。
新築住宅を建築するときや、中古住宅を購入して大規模リフォームを行うときは、下水道やガスなどの埋設管を引き込む掘削工事を行います。このとき、所有する敷地が私道に面している場合は、私道所有者から「通行承諾」と「掘削承諾」の許可を得る必要があります。
大掛かりな掘削工事になると3日~10日程度の期間を要するため、近隣住民から反対されるケースも珍しくありません。隣家から反対された場合は、承諾なしに工事は行えないため工期が遅れることになります。
なお、2023年4月の民法改正により、民法209条で他人の土地にあるライフライン設備を利用する権利が明確化されましたが、条件を満たす場合に限られます。また、私道の無断使用は認められていないため、基本的には所有者との協議が必要です。
参考:e-Gov 法令検索|民法
私道の共有名義人が分からない
2つ目は、「私道の共有名義人が分からない」というトラブルです。
1本の私道を複数人で共有する「共同所有型」の場合、下水道工事を行うためには共有者全員の許可が必要です。しかし、場合によっては共有者が行方不明であったり、連絡が取れなかったりすることもあります。
たとえば、共有者がすでに亡くなっていて、相続者が私道の持分を登記していない場合は「誰が相続人なのか分からない」というトラブルが起こり得ます。当然、共有者の同意が得られないので下水道の工事を行うことはできません。
このようなケースでは、法務局で登記簿謄本を取得したり、弁護士に相談して解決したりする必要があります。
私道の下水道で破損や詰まりが発生した
3つ目は、「私道の下水道で破損や詰まりが発生した」というトラブルです。
下水道で破損や詰まりが生じると、生活排水が逆流したり、雨水が溢れたり、生活に大きな影響を与えます。したがって、下水道の異変を感じたら、専門業者に相談すると共に、私道の所有者へ早急に連絡しましょう。
しかし、私道所有者の中には、工事を承諾するかわりに承諾料を要求してきたり、理由なく拒否してきたりするケースがあります。私道所有者の承諾が得られなければ、工事業者も立ち入ることができません。
これによって、下水道の工事を断られたといったトラブル事例もあります。これらのトラブルを回避するためには、私道所有者と十分に話し合いを行い、場合によっては弁護士など法律に詳しい第三者を交えて話し合うことが大切です。
私道の共有者が費用を払わない
4つ目は、「私道の共有者が費用を払わない」というトラブルです。
複数人で管理する共有型私道の場合、私道の管理に必要な修繕費や管理費は各管理者が負担することが原則です。しかし、共有者の中には、経済的な理由から費用が払えなかったり、意図的に支払いを拒否したりするケースがあります。
特に、土地の所有者が亡くなって、別の場所に住む親族が相続した場合は滞納トラブルが起こりやすくなります。このようなトラブルでは、まずは話し合いによる解決を試みましょう。それでも解決しない場合は、法的手段を検討することになります。
具体的には、民法253条にもとづいて費用を支払わない共有者がいる場合、他の共有者が持分の買い取りを行うことが可能です。共有者間の話し合いで解決しない場合は、法律に関する知識が必要になるため、早めに弁護士に相談したほうがよいでしょう。
参考:e-Gov 法令検索|民法
私道の下水道トラブルを防ぐためのチェックポイント
これから住宅を購入する方は、以下のチェックポイントを確認しておきましょう。
- 私道の所有者全員から同意を得る
- 費用負担の割合について確認する
- 覚書や承諾書を作成する
- 行政や専門の業者に相談する
項目ごとに詳しく解説します。
私道の所有者全員から同意を得る
私道の下水道トラブルを防ぐためには、事前に私道の所有者全員から工事に対する同意を得ることが大切です。同意を得る際は、工事の具体的な内容、日程を説明し、書面で同意を取り付けましょう。
また、その際に維持管理について明確化しておくと、今後下水道に関するトラブルが起きた場合でもスムーズに対応できます。万が一、所有者の許可なく勝手に工事を進めた場合は、工事の差し止めや損害賠償請求などのトラブルに発展する可能性があるため注意が必要です。
費用負担の割合について確認する
私道は不動産の持ち分の割合に応じて費用を分ける(按分)のが一般的です。たとえば、私道を4人で共有している場合は、各自が1/4ずつ費用を負担することになります。
また、契約で定められた割合で費用を負担する場合もあります。下水道は老朽化による詰まりや破損だけでなく、異物を排水管に流したことによる排水不良など、いつトラブルが起こるかわかりません。
下水道トラブルが起きれば生活に大きく影響するため、費用負担の割合について協議・確認しておくことは非常に重要です。
覚書や承諾書を作成する
覚書や承諾書は、不動産取引や建築確認申請において、通行もしくは工事の許可を得るために作成される重要な書類です。私道トラブルを防ぐためにも有効な書類であり、通行・掘削に関する権利や、費用負担の按分、責任範囲などは覚書や承諾書を作成して書面に残すことでリスクを軽減できます。
また、将来的に住宅を売却する際、私道の所有者の承諾が得られない物件は売却が困難になったり、大幅な値引き交渉をされたりする可能性があります。物件購入後のトラブルを未然に防ぐためにも、必ず覚書や承諾書を作成しておきましょう。
なお、万が一覚書や承諾書を紛失した場合、再度同じ内容で作成できるとは限りません。自分の資産を守る大切な書類ですので、紛失しないよう注意してください。
行政や専門の業者に相談する
下水道トラブルが発生した場合、まずは原因を特定する必要があるため、自治体の窓口や専門業者へ相談するのが一般的です。
自治体の窓口では、公共下水に関する相談や情報提供を行っています。また、専門業者に相談すれば、実際に下水道で起きているトラブルの原因を突き止めることができます。
自宅を購入する前に弁護士や司法書士、私道での施工経験が豊富なハウスメーカーに相談することで有効なアドバイスがもらえます。